2020年9月19日土曜日

工藤勇一さん著書「学校の当たり前をやめた」を読んで

今回は工藤勇一さん著書「学校の当たり前をやめた」のご紹介と感想を綴りたいと思います。

著者の工藤勇一さんについて

メディアでも取り上げられておりご存知の方も多いとは思いますが、著者の工藤さんはほぼ教師一筋の人生を歩んでこられ、現在は横浜創英中学・高等学校の校長として勤務されています。

この著書で書かれている内容は執筆当時勤められていた麹町中学校校長時代の様々な取り組み(担任制廃止や定期テスト廃止など)を取り上げています。

また学校教育のあり方、生徒たちへの接し方、保護者、地域社会とコミュニケーションする上で重要なマインドセット、気づきを与えてくれる本となっています。

この本の冒頭を読み始めただけで私は自然と涙がこぼれそうになってしまいました。

冒頭の文章からその情景を想像するだけで工藤さんがどのように生徒と触れ合い、寄り添っているか、そしてこの本で語られようとしている内容を感じ取ることが出来ました。

本で述べられていること

学校の存在意義として「よりよい社会を目指す」としており、教育と社会との関係を非常に重視していると感じます。

また、教師も民間の会社人もすべては社会をより良くするという目的を目指していることに違いはないということを気づかせてくれます。

著者がどのように学校というものを捉えているのか、そして学校に通う生徒達をいかにして社会と繋がり自律した人間として旅立たせようとしているのかを語っておられます。

子供達の無限の可能性を信じ、子供達と同じ目線で過ごす姿はとても胸が熱くしますし、同じマインドを持つ学校や先生達が増えたなら、今よりももっと素敵な社会がやってくるのではと思います。

章ごとのトピック

ここでは気になったトピックをピックアップしてご紹介したいと思います。
※本の内容を少しでも感じてもらえたらと思います。

はじめに
・学校とは「自律」する子供をサポートし育てる場所
現在も麹町中学校の教育目標の一つに掲げられているのが「自律」。けんかやいじめなど当事者である生徒自身が解決しなければいけない。

誰かが仲をとりもってくれるだろう、親が何とかしてくれるだろうと考えずに生徒自身が対話し、お互いが納得出来る解決策を見出していくことが大切。
 
第1章
・宿題の廃止
麹町中学校では宿題をすべて廃止。宿題は「わからない」を「わかる」ようにすることが本来の目的。すでにわかっていることに時間を費やすのはもったいない。

書き写すだけ、こなすだけの「やらされる学習」であってはいけないし、では思考停止の状態になってしまう。

学校でしっかりと勉強し、家では好きな事、夢中になれる事に主体的に行動する時間に費やしてほしい。

・定期テストの廃止
定期テストは通知表をつけるための指標として有効だが、どうしても教師側の都合となる。また、テスト直前に一夜漬け学習で「最大瞬間風速」的に良い結果を得たとしても本当に知識が身についているかがわからない。

定期テストを廃止した代わりに、1つの単元が終了したタイミングで小テストを行う形で1つ1つ着実に理解を深める事が生徒自身の血肉となっていく。

・固定担任制の廃止
1クラス1担任を廃止し学年担任がチームとなり複数のクラスを受けもつ。医療機関におけるチーム医療を参考にしている。

教師によってもそれぞれ得意、不得意な部分を持っている。チーム制にする事で苦手な分野をお互いがサポートし合える関係を構築出来る。

生徒側にとっても担任教師との相性などで心理的な不安を抱えるリスクも軽減出来る。

・運動会「全員リレー」、「クラス対抗」の廃止
運動会は本来「生徒全員を楽しませる」ことが目的となるはずだが、運動が苦手だったりクラス対抗の競技で足を引っ張ると後ろめたく感じてしまう子供たちがいる。
 
麹町中学校では運動会の企画はすべて生徒会による生徒中心で企画、運営されている。生徒たちはそうした少数意見にも耳を傾け真剣に議論を重ねた結果、「競う」という概念を取り払い、「生徒全員を楽しませる」という目的を見事に成し遂げた。

第2章
・不登校の生徒
不登校になったとしても自分を責めないでほしいし、何も変わらなくて良い。
学校に行きたくなければ行かなくても良い。と生徒の気持ちに寄り添うことが大切。

同時に環境や他人のせいにするといった、人を責める事をやめて「自律」のスイッチを押すためのサポートをしなければならない。

学校に通うという事は学ぶ上での1つの選択肢であって、様々な学びの形があって良い。

様々な問題は大人が作り出していることが多い。不登校を問題だとする考えを捨てなければならない。

「学ぶ」とは、社会とのコミュニケーションと経済活動であり「社会とシームレスにつながる」事が本質。

江戸時代の寺子屋という教育システムは、社会をよりよく生きる知識、知恵といったものを学ぶ事が出来る場所であった。それが現代にも求められているかもしれない。

第3章
・社会で求められる資質能力(コンピテンシー)
非認知スキルといわれる、経験を通して身につけるもの、そして一生自分の糧になるもの。
麹町中の目指す生徒像は、「言語や情報を使いこなす」「自分をコントロールする」
「多様な集団の中で協働出来る」能力を身につけることを目指している。

・修学旅行から取材旅行へ
ツアー会社JTBと協力して「取材旅行」に変貌。
生徒たちがツアー会社の社員となったつもりで、自らが取材して魅力あるツアーを企画、立案していく。
 
・職場体験(クエストエデュケーション)
実在の会社社員になった想定で課題を解決していく。模擬インターンシップへの参加。

・アフタースクール
外部指導員、教員を目指す学生などにアフタースクールを通して様々な分野を学ぶ場を提供している。副次的な効果として学校の施設稼働率を上げる事にも貢献。

第4章
・トラブルを学びに変える
物事を決めていくなかで対立は必ず発生するもの。ひとりひとり価値観、感じ方は違うという前提に立っていかに「生徒のために」という上位目的に向かって対話を重ねていく事が大切。

・学校を「コミュニティ・スクール」に
保護者、地域社会、教師それぞれが当事者意識を持って学校を見守る、育てていく。

第5章
・学校の当たり前、古い慣習を脱ぎ捨て、上位目的に向かってゼロベースでカイゼンしていく事が大切。

まとめ

トピックとして取り上げたのは一部であり、多くの当たり前、なんとなく行ってきた慣習など改善しているエピソードが数多く述べられています。

また、職場体験など大人社会と密接にリンクした教育に積極的に取り組んでいる様子がとても伝わってきます。

この本を通して、教師と生徒、そして取り巻く環境や親、地域社会が自分ごととして学校というものを支えていくかということを考えさせるものでした。

私には3人の子供がいますが、長女は中学校に入学し、末っ子の長男も小学校入学となり、
全員が学校に通うことになります。

子供達が通う学校も最近は情報公開など実施していますが、この本から学んだように主体的に学校をサポートするような取り組みを考えていきたいと思います。

この本を最初に読んだのはまだコロナウィルスが世界中に蔓延する前の時でした。

その後、誰もが予想だにしなかったコロナ蔓延によって社会全体がリセットされた状態と
なり、今なお手探りの状態が続いています。

今この本を改めて読み返し感じた事は著者が述べているように「トラブルを学びに変える
というマインドが非常に大事だと感じました。

コロナによって経済も教育も様々や制約を受ける状況ですが、「コロナのせいだから」と
他責にするのではなく「コロナだからこそ」自分に出来る事は無いかという事を主体的に
問いかけ続けていきたいですし、苦境でこそ「上を向いて歩いていきたい」と思います!

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